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タオらくがきしたらタオのSS書きたくなったので、
リハビリかねてのSSです。ここ最近まったく文章を書けていなかったという……

あまり長いものもかけないので、ちょっと短めです。
そして最初はわかりづらさMAXだと思うので一応言っておくと、タオ視点です。
タオの一人称私だからわかりづらいね。

タオのわがままとも言えないようなわがまま。

突然風邪を引いたかと思うと、次の日には声がでなくなっていた。
私のことじゃない。

「ヒカリさん、おはようございます。」

彼女のことだ。
それを知ったのは今さっきのこと。
淡い栗色の髪の毛をふわりとはねさせ、私の前でピタリととまった。
彼女はただにこりと微笑んで、カバンから淡く可愛らしい色合いの桜貝を差し出してきた。

「わぁ。これはまた、綺麗な桜貝ですね。ありがとうございます。」

ヒカリさんはニコニコしたままちょこんっと首を傾いで、手をひらひらと振って走り去ろうと踵を返す。
なんだか、いつもと違うような…そんな違和感を感じて、待って、とヒカリさんを呼び止めた。

「そういえば、昨日少し風邪っぽいと言ってましたが、大丈夫ですか?」

するとヒカリさんは困った笑顔で振り返り、「実は…」とでも言うように俯いて、
然るべき間をとったあとに顔を上げて喉元を2度、手で軽く叩いた。

「もしかして、声が…」

私がいいかけると、ヒカリさんはうんうんと頷いた。

声がでない。

そうか。今日は一度も彼女の声を聞いていないんだ。
さざ波によく馴染む、心地いい響きを。

つらくはない。熱はない。ただ声がでないだけ。大丈夫だよ。ごめんね。
いつも以上に表情が豊かで、大きい身振り手振り。
ヒカリさんはできる限り自分の今の状態を説明しようと試みてくれているようだ。
もしこのまま声がでなかったら…と一瞬不安にも思ったが、その仕草がいちいち可愛らしくて、思わずふふっと笑みがこぼれた。
それを見てヒカリさんは恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いてしまった。

「あっ!え、えっと、すみません。その…ヒカリさんがあまりにも可愛らしかったもので、つい…」

ますます顔を赤くして慌てるヒカリさん。
ついつい自分の本音をぽろっともらしてしまった私は、本音をもらした恥ずかしさよりもなんだかヒカリさんをいじめているような罪悪感を感じて焦る。

「えっと、あの…そ、そうだ。」

ちょっと待ってて下さいと言って、私は家の中から複数の桜貝とキリを持ちだした。

「これ、ヒカリさんが今までにくれた桜貝です。どうです?いっぱいあるともっと綺麗でしょう?」

ヒカリさんはうんうんと頷いて顔を輝かせた。
私は家の前の桟橋板に腰を下ろして、ヒカリさんにも座るように促す。

「それじゃあ、この中から特に綺麗な9枚を選別しますので、手伝ってくれますか?」

こくりと彼女は頷いて、とても楽しそうに桜貝をひとつひとつ見比べて選り分けていく。
それが終わると、得意げに選別した9枚を私に見せる。

「はい。終わりましたね。じゃあこれをこうして…」

9枚の桜貝にキリで順に穴を開けていく作業をしていると、ヒカリさんは何をしているのかと首を傾げて私をみる。

「ふふ、できてからのお楽しみです。」

私は釣竿のリールから釣り糸をちょうどいい長さのところで歯で引きちぎり、穴を開けた桜貝に手際よく糸を通していく。

「よしっ。」

9枚全部に糸が通ったところで、糸の両端を両手でつかんで引き上げる。
すると、カラカラカラ、と貝のぶつかりあう音が鳴った。

「特製、桜貝のネックレスです。頭、少し下げてもらってもいいですか?」

ヒカリさんはおぉ、と驚いた顔をして、大人しく頭をひょこっと下げてくれる。
糸の両端を結んだ桜貝のネックレスを、私がヒカリさんの首にかけてやると、待ちかねたようにヒカリさんは顔をあげた。
首にかけた桜貝がぶつかりあって、また気持ちのいい貝の音が響く。

「こほん…なんで9枚なのかというと、これで数字を表すことができるんです。」

そう言って、私は桜貝のネックレスを指差し、左から右へ、貝の大きさが大きくなっていることを説明する。

「一番小さいのから1、2、3…そして一番大きいのが9を表します。これで多少なりと、数字を伝える役に立ち…ませんかね?」

私が不安げにそう聞くとヒカリさんは微笑み「ありがとう」と口を動かした。

「それと、私に後ろから声をかけたいときなどは、このネックレスを鳴らしてください。それから、そうですね…」

1回鳴らして「はい」、2回鳴らして「いいえ」、3回鳴らして挨拶、4回鳴らして「ありがとう」
…私が思いつきであげる音の回数とその意味を、ヒカリさんは真剣に聞いて覚えようとしてくれている。

「…とは言っても、声がでないのは今日だけかもしれないから、覚えるだけむだかもしれないですけれど。」

そんなことない、とヒカリさんは首を振る。私はほっとして、ありがとうございます、と礼をいう。

しばらくの間、ヒカリさんは貝を鳴らして私と一緒に拙い会話を繰り返した。

さざ波の音に、よく馴染む、とても穏やかで静かな会話。

それでも確かにつながる会話。

貝のぶつかる音だけだけれど、その音に意味があるのなら、これも立派な彼女の紡ぐ言葉だろう。
ヒカリさんにはわざわざ面倒なことをさせてしまったな、とも思う。
正直にいって、これはただただ私のわがままだったから。

(一日たりともあなたの声が聞けないのは、やっぱり寂しいですからね。)

そう、誰も知らない私のわがまま。

だから。

もうひとつだけ、私はわがままをさせてもらおう。

「…もし、私のことを思い出して暖かい気持ちになったときは、9枚の貝殻を撫でて鳴らしてくれませんか?」

ヒカリさんは微笑んでネックレスを1回たたいて鳴らし、9枚の貝殻を滑るように撫でて貝殻の音を響かせた。

貝殻のぶつかる音とあなたの声が重なって響いた気がして、胸が高鳴る。

あなたはその音が持つ意味を知らなくていい。
―それは私の中だけで意味を成す、秘密の言葉、ということにしておきますから。



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